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日本画の立体感!隈取(くまどり)の意味と種類をマスターせよ!

この記事で分かること
  • 隈取とは陰影のこと!
  • 日本画の隈取とは何なのか?
  • 隈取筆は絵具を付けません!
  • 隈取に関する用語10選!



こんにちは!日本画家の深町聡美です!

皆さんは隈取をご存じでしょうか?


「歌舞伎の化粧のことでしょ?」

実はそれだけじゃなく、
きちんとした語源があるのです!


また、このサイトに来た事ある方なら
「画材屋さんで隈取筆を見たよ」
という方もいらっしゃるかもですね!

画材屋さんに行けば
「隈取筆」と書かれた筆はありますが、
なかなか使い道やコツは分かりません。


ですが今回の記事を読めば、

  • 隈取の本当の意味
  • 日本画の隈取とは何なのか?
  • 隈取筆の使い方
  • 隈取に関する用語

が分かるようになります!


ぜひ最後までお読み頂き、
知識をGETしてお帰り下さい!

DARENIHO

隈取を誰でもマスターできるような気概でまとめております!

日本画の隈取(くまどり)とは?影やぼかしという意味です!

「隈取」って見たことある漢字だけど、なんて読むの?

DARENIHO

隈取は「くまどり」と読みます。
歌舞伎の隈取が有名ですね!



隈取は「くまどり」と読み、
影や濃淡のぼかしのことを言います。


一見「隈取」と「影」は関係のない言葉に見えますね。


ですが、「隈」の意味を辞書で調べると、
このようになっています。

1 曲がって入り込んだ所。また、奥まった所。もののすみ。片隅。「川の—」

「光到らぬ—もなし」〈樗牛・滝口入道〉

2 物陰になっている暗がり。陰になった所。

「停車場(ステーシヨン)前の夜の—に、四五台朦朧と寂しく並んだ車」〈鏡花・歌行灯〉

3 (「暈」とも書く)色の濃い部分と淡い部分、あるいは、光と陰とが接する部分。また、色の濃い部分。「目の下に—ができる」

「夕暮れの空の濃い—をいろどっている天王寺のあたりを」〈田村俊子・木乃伊の口紅〉

引用:weblio


要するに

  • 影になっているところ
  • 色が濃くなっているところ

を日本ではと呼んでいたのです。

DARENIHO

「目のクマ」の「クマ」も影のことを指しています!



「隈」は「暈」と書く事もあるように
ぼかしを意味する事もありました。


「隈」単体で色が濃い、ぼかしを意味していたんだね!


日本画の隈取(くまどり)は何のために使われたの?

隈は影という意味だったから、「隈取る」で影を入れるという意味だね!

でも隈取って何のために行われていたの?



日本画は立体的ではないと言われますよね。


ですが、日本画でも立体感の概念はあります。


例えばこの絵!

橋本雅邦(天保6年-明治41年) – 静嘉堂文庫美術館, パブリック・ドメイン, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=36268584による



橋本雅邦の「龍虎」に描かれた竹にも
影が描かれていますね!


この影が竹の立体感を生み出しているのです!



また、手前の竹は明るいですが、
奥の竹は影になっていますね。

これにより絵に奥行が生まれています



このように

隈(濃淡やぼかし)によって

  • 立体感が表現できる!
  • 遠近感が表現できる!
  • 装飾性が生まれる!

というわけですね!

昔の日本画でも、現代と同じように影で立体感を出していたんだね!


ただし、影と言っても黒だけでなく
血色を表す赤色や衣類の色など、
必要に応じて様々な色が使われます。

DARENIHO

この仏画では衣類が赤色で隈取されていますね!

隈取は「影だから墨!」という感じではなく
様々な色の絵具で施されてきたのです。


歌舞伎の隈取の語源と意味は?
歌舞伎の隈取も影や立体感を意味しています。

演劇を行うホールは広く、
遠くからでは役者の表情が見え難いですよね。

そこで、
顔の立体感を誇張して
遠くから表情を見えやすくするため

あの印象的な赤い隈取をするようになりました。

これは初代市川團十郎が考案したと
言われています。



キレイにぼかすには隈取筆(くまどりふで)を使おう!

Image by andreas160578 from Pixabay

さて、ここで一回休憩です。


ちょっと自分の手を見てみて下さい。



影の境界線はどうなっていますか?


アニメ絵のように、くっきりした影ですか?


どちらかと言えば、
ぼんやりとぼやけた感じではないでしょうか。


そうです、より自然に見える影を描くには
影の境界をぼかす必要があるのです!


でも自然なぼかしってアナログ絵じゃ難しいでしょ?

DARENIHO

そこで、隈取筆(くまどりふで)を使います!



この「隈取筆」は、別名「ぼかし筆」とも呼ぶ
ぼかし専用の筆!


図解日本画用語事典では、
このように説明されています。

彩色面に暈しを入れるのに用いる筆。ずんぐりとした形で美しく暈すことができる。

図解 日本画用語事典「隈取筆」




上の画像を見て下さい。

普通の筆のように筆先が細くありません!

これは広範囲をふわっと美しくぼかすため。



つまり隈取筆は

  • 影の境界線をぼかすのに最適の専用筆

なのです!

筆先が小さいと上手くぼかせないもんね!

↑販売時は穂先が細く固められています。

DARENIHO

日本画の隈取に挑戦する時は、ぜひ隈取筆を使って下さいね!

※他の筆でも、もちろんぼかせますよ!

隈取筆の使い方

隈取筆で色を塗れば上手にぼかせるってこと!?

DARENIHO

隈取筆はぼかすだけの筆です!絵具は付けません!

注意したいのが隈取筆の使い方!

隈取筆で直接絵具を塗るのではありません。


水を付けた隈取筆で、
既に塗ってある絵具をぼかすのです!



片手に絵具用の筆と隈取筆を両方持ち、
絵具が乾く前に素早くぼかします。

この方法を「返し筆」と呼びます。

日本画の隈取(くまどり)の種類を紹介!

雲や霞も隈取で表現できる

隈取をやってみたいけど、どうやればいいか分からないよ!

DARENIHO

まずは隈取の種類とやりかたを見てみましょう!



実は日本画の隈取りには、
沢山の種類があるんです!



さらに、呼び方やり方は流派によって違います!


ここでは『丹青指南』という、
狩野派の技法書に書かれた隈取をご紹介しますね!


全て覚える必要はありませんので、
まずは興味があるやり方を見つけて下さいね!



総隈(そうぐま)



淡い墨で骨描き(いわゆるペン入れ)
した絵の周辺に施す隈取です。


着色を始める前に行うものです。

通常、背景などの広い範囲に行うため
どうしてもムラが出来がちです。

ムラが気になる時は、紙を水で濡らしたあと、
乾かない内に急いで行いましょう!

DARENIHO

アニメ背景の空の塗り方と同じ感じですね!



人物や動物、風景など何にでも使うことが出来ます!

地隈(じぐま)

DARENIHO

地面近くの陰影を描く方法です!


この隈は総隈の次に施す淡墨の隈です。

家や木、岩石など地面に接している物の
下の方から地面に対してつけるものです。

地面近くの影、というイメージだね!

肉隈(にくぐま)

うっかり無彩色で例を作ってしまった
DARENIHO

これは彩色をする時に施す隈です。


物質の立体感や、西洋絵画でいう「ボリューム」を表す隈を「肉隈」といいます。

人物の顔や腕などの肉付きを表す際に見られます。


もちろん、植物や動物にも使える技法です。

とにかく肉付きの高低を表す際は
何にでも使うことができる隈取です!

狩野芳崖「悲母観音」部分

上の「悲母観音」では、
赤ちゃんの手足のふっくらした表現
使われていますね!

割隈(わりぐま)

DARENIHO

これも絵具でほどこす隈取です!


この隈は葉っぱや壁など、
全ての物体の「曲がった面」を分けて見せる隈です。


皆さんも葉を描く時は
折れた面のどちらか一方に影を付けますよね。

それと同じ考え方です。

返隈(かえりぐま)

DARENIHO

こちらは完成近くに施す隈です!



「隈とは陰影だから暗い色のことね…」

と、どうしても影のイメージがありますよね。


ですが、この「返隈」(かえりぐま)
胡粉という白い絵具を使います。

いわゆるハイライトに近いんだね!


古い日本画の技法書では

彩色の完成が近い時に、光線を受ける方から陰影がある方へ向けて、反対に施す隈。

丹青指南/『日本画画材と技法の秘伝集』p173

と説明されています。


いろいろなところに使える隈ですが、

  • 美人画や子供の額
  • 鶴の羽の重なり
  • 草木や花びら

使われていました。


また胡粉以外の絵具を使う方法もあります。

例えば、銀泥は白地の衣服の光沢に使われました。

また、臙脂でも隈取がされていたそうです。

DARENIHO

花の反りによる影は丹に胡粉を混ぜた絵具が使われていました!

一口に隈取と言っても、こんなに複雑なんだね!



丹青指南に書かれていない隈取(くまどり)を紹介!


上記の5つの他にもよく使われる隈取があります!

ここではさらに5種類の隈取用語を解説致します!

影隈(かげくま)

隈取の中でも陰影を表す隈取を
総じて影隈(かげくま)と言います。


要するに地隈や割隈など、
何らかの影を表す隈取は全て影隈の一種
です。

返隈は光を表すので影隈ではありませんね。


照隈(てりぐま)

一方、明るい色で行う隈取を「照隈」(てりぐま)と言います。


武蔵野美術大学の造形ファイルでは
「下地よりも明るい色でぼかしを入れる」
と説明されていますね。


これはつまり、先述した「返隈」(かえりぐま)

つまり胡粉で光を描くような隈も、
照隈の一つという訳です。

光が「照っている」から「照隈」なんだね!



外隈(そとぐま)


塗った絵具や描かれた物の外側をぼかして目立たせる技法です。


水墨画の月の表現によく使われていますね!


一回やってみるぞ!と言う時は
「目立たせたい物の輪郭を墨でぼかす」
という認識でチャレンジするといいかもしれません!


DARENIHO

輪郭を目立たせたくない時に有用ですね!



内隈(うちぐま)


外側をぼかす「外隈」に対し、
内側をぼかすのが「内隈」(うちぐま)!


ほどこす対象によっては
これだけで光と影を表現できます。


片ぼかし


シンプルに、
「絵具や墨を塗った片側だけぼかす」
隈取です。


水墨画の基本の技法として知られていますが、
日本画では隈取筆でぼかすのが一般的です。

水墨画では全く違う描き方なのが面白いですね!




以上が全部で10個の隈取用語でした!


これだけでもかなり混乱した方も
いらっしゃるのではないでしょうか?!


ですが、
上記の五つの隈取の他にも、
マニアックな隈取用語はこんなに沢山あります!

  • 大隈
    小さい隈取の上からさらに大きく隈取る技法
  • ふかし隈
    ごく薄い隈取
  • はさみ隈
    地隈の上に模様を描いてさらに上から薄く隈取る技法
  • 笑い隈
    顔や花をほんのり赤くする隈
  • おらんだ隈
    球体を写実的に隈取る技法
  • 辻隈
    点の四方をぼかす隈取(?)



ここまで読んだあなたはよほどの日本画マニアなはず!

ぜひ「日本画 画材と技法の秘伝集」で詳しく確かめてください!



まとめー日本画の立体感!隈取(くまどり)の意味と種類をマスターせよ!

橋本雅邦(天保6年-明治41年) – 静嘉堂文庫美術館, パブリック・ドメイン, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=36268584による

最後までお読み下さりありがとうございます!

以上、隈取の意味や種類でした!

  • 隈取とは陰影やぼかしという意味
  • 日本画では陰影を書き表す方法を隈取と言う
  • 隈取をキレイに描くための筆が「隈取筆」
  • 隈取には様々な種類のやり方がある

ということが分かったと思います。


現代の日本画では骨描き(ペン入れ)の後に少し行うだけ、という事が多いですが、ぜひ皆さんも隈取の技法で墨を扱ってみて下さいね!


狩野派の隈取について現代語訳で読もう!

狩野永徳唐獅子図
狩野永徳 – [1], パブリック・ドメイン, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=4210868による



ここからは狩野派の隈取の方法について原文で見てみましょう!



こちらの原書は『丹青指南』という絵の描き方の本です。

原書を読むにはどうすればいいの?


そんな時は国立国会図書館のサイトでチェック!

全文を無料で読むことが出来ます!


また、正確な訳や詳しい図解が欲しい!
という方は画材と技法の秘伝集がおススメです!

電子書籍&
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原文が本で読めるようになりました!

隈取(くまどり)

総隈(そうぐま)

この隈取りは、素描の後に淡墨で絵の周辺に施す隈取りである。

人物や鳥獣、山水など全ての物体に施すものです。

この隈は大和絵の人物画には不要なものです。

地隈(じぐま)

この隈は総隈の次に施す淡墨の隈であり、
家屋や立木、岩石などの根元にかけて
地面の平面に施して、最も単純な隈取りである。

肉隈(にくぐま)

この隈は絵の具で、彩色に施す隈である。
そして人物であれば顔、及び身体、
または鳥や動物草木の類、
そのほか全ての物体で肉付きの高低を示すための隈である。

割隈(わりぐま)

この隈も絵の具で彩色に施す隈である。
全ての物体の曲折を分けて見せるための隈で、
例えば木の葉の中筋のような
折れ目があるところを界にして、
そちら側のみに施す隈である。

反隈(かえりぐま)

この隈は彩色完成に近い場合に「方ドメ」胡粉で、
光線を受ける方から陰影がある方へ向けて、
反対に施す隈である。

そして人物においては美人、及び子供の額隈、

または白地の衣服で光沢あるものには銀泥で反隈を施し、

そして鳥や動物の中で鶴などは
その羽の重なりを分けるのに使い、

その他草木の花では、花びらを分けるのに使う。

そのほかは朱で隈取り、もしくは臙脂で隈取りをしている。

花の反りによる影には丹の中に少しの胡粉を混ぜて使うものです。






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