こんにちは、日本画家の深町聡美です。

今回は狩野派のハウツー本から、江戸時代のえんじ色の使い方を紹介します!
「昔の絵具~?
チューブに入ったのを輸入してたんじゃないの?」
実は違います!
特にえんじ色の絵具は、円盤状の綿でした!
一体そんな綿で絵は描けるのか!?
一体どうやって使っていたのか!?
昔の日本画の、えんじ色の使い方を解説します!

えんじ色ってどんな色だっけ~?
こちらの記事をご覧下さい!

えんじ色の日本画絵具の原料は?

えんじ色の由来や材料は前の記事でお話した通り!
そしてえんじ色の絵具は材料や作り方で、
三種類に分類されます!

前記事を読んだ人もおさらいしよう!
えんじの日本画絵具①ラックという、虫製の「生臙脂」

Sandeep HandaによるPixabayからの画像
インドやミャンマーなどに生息する
ラックカイガラムシの色素を、
円盤状の綿に浸したものです。
これを生臙脂(キエンジ)と言います!
奈良時代ごろから中国から輸入していましたが、
現在では作り方が失われた貴重な絵具です。

江蘇省揚州のものが上級品だったんだって
えんじの日本画絵具②紅花による「正臙脂」

Julio César GarcíaによるPixabayからの画像
ふたつめは紅花から色素を抽出した
正臙脂(ショウエンジ)!
一見黄色い花ですが、
水に浸して黄色い色素を除去した後、
藁灰(わらばい)のアクで赤色の色素を抽出できます。
それに米酢や梅酢(烏梅)を入れると
赤く発色して一晩ほどで沈殿します。
これが顔料になるんですね!
この作り方のえんじが、本来のものということで
正臙脂(ショウエンジ)なんです!

古代中国でも頬紅や口紅として使われていました!
えんじの日本画絵具③蘇芳による「キエンジ」

江戸時代には蘇芳にミョウバンを入れて
赤くしたものも「えんじ」と考えられました。
古くから伝わる狩野派の本では
蘇芳に胡粉を入れて絵具にしたものを
「キエンジ」として紹介しています。
このえんじ絵具の作り方は
貝原益軒の『大和本草』でも言及されています。

いろんな工夫をして赤い絵具を作っていたんだね!
江戸時代の日本画のえんじ絵具は綿だった!?

Martin HettoによるPixabayからの画像

昔のえんじは、円盤状の赤い綿として輸入されました!
「ラックという虫で作ったえんじ」で書いたように、
えんじは他の日本画絵具のように粉ではありません。
江戸時代ごろの狩野派が使っていたのは
「中国の江蘇省揚州付近の紫草」を
平たい円形の綿に浸して乾燥させたものでした。
【日本画豆知識】奥村土牛も愛用した画材・綿臙脂(わたえんじ)。絵具として使うと、とても優しいピンク色に。実はカイガラムシの体液から作られていて、この色素は口紅などにも使われているんですよ。(山崎)@山種美術館 pic.twitter.com/ELgsFrSxH0
— 山種美術館 (@yamatanemuseum) March 17, 2016

ラック色素によるえんじが多いようです。
見た感じ、綿臙脂を通販で取扱っているのは
丹青堂だけのようでした。
紅花?紫草?
じつは古代のえんじ絵具に使われた草は
はっきりしていないのです。
歴史が古い絵具なので、
紅花、オトギリソウ、紫草、蘇芳、ラック、
コチニールなどの様々な素材が使われたと
考えられています。

こんな綿の円盤なんて、どうやって使っていたの?

「丹青指南」という本から、この綿えんじの使い方を見ていきましょう!
江戸時代のえんじ色日本画絵具の使い方
天野山文化遺産研究所によるFB投稿
使い方はなかなか複雑です。
- 細かくちぎる
- お湯に浸けて紅汁を絞り出す
- 焼き付けを行う(乾燥させる)
「干上がらせるの!?」
という感じですよね。
ですが、
雑にやってしまうと発色が落ちてしまいます。
多少手間を掛けても
綺麗な色を目指したいですね!
①えんじの絵具を小さく切り取ろう!

まずは小さくなるまで引きちぎります!
えんじの円形が大約21〜24cmのものと仮定します。
その4分の1、もしくは3分の1ほどを切り取り、
さらに引き裂いて、碁石くらいの大きさにします。
②えんじの絵具を少なめの熱湯を入れる!

絵皿に入れて、熱湯を注ぎます。
お湯は少なめにしましょう。
乾燥させる(焼き付け)作業に
時間がかかってしまいます。
③えんじの絵具綿を絞ろう!:第一番汁

紅綿をしぼりましょう!
すぐに紅色の汁になるので、
お湯から綿を取り出します。
綿に含んでいる紅汁を浸っていた絵皿にしぼります。
これを「第一番汁」といいます。
④えんじの絵具綿を絞ろう!:第二番汁

別の絵皿に同じことをします!
しぼった綿をほかの絵皿に入れて、
また熱湯を注ぎます。
お湯が赤くなったら同じ絵皿にしぼります。
これを「第二番汁」とします。
⑤絞ったえんじの絵具に蓋をして一晩放置
二つの絵皿にラップをして一晩放置!
埃やゴミが入らないように
仮蓋(ラップ)をしておきましょう。
⑥えんじ汁を混ぜて日本画用の絵具を作る!

一番汁と二番汁を合わせます!
一晩置いておくと、紅汁はさらに澄んで、
鮮やかで明るくなります。
沈殿物が紅汁と混ざらないようにして
一番汁と二番汁を混ぜます!
混ぜた紅汁は他の絵皿に移しましょう。
⑦絞ったえんじ絵具をゆっくり煮沸!

絵皿を湯煎します!
二つの紅汁を混ぜた絵皿を
お湯か水を入れた鍋に浸して煮沸します。
すると、水分が蒸発して赤い絵具が
絵皿にカピカピに乾きます。
その絵皿を絶えず動き揺らしながら、
えんじを乾燥させていきます。
現代では
保温トレイ等を活用!
⑧えんじの日本画絵具完成!

乾燥させればえんじの完成!
ゴミやホコリが入らないようラップをします。
膠を混ぜて、水を付けた筆で
水彩のように溶いて使います。

乾燥させて、やっと使えるようになるんだね!
まとめ:日本画のえんじ色を解説!絵具は昔、綿だった!?

以上、昔使われていた綿のえんじの使い方でした!
昔はえんじはチューブでも粉末でもなく、
綿に染み込ませた絵具だったんですね!
普通の日本画絵具のように指で溶かすことが
できません。
綿から紅汁を染み出させ、
乾かして、ようやく使えるようになるのです。
みなさんも、ぜひ昔の絵具に思いを馳せてみては
いかがでしょうか?
『丹青指南』は、江戸時代の絵師たちが使っていた技法書です。
色の名前や使い方が細かく書かれた、
貴重な日本画の資料を
現代語訳+注釈つきでまとめました。
👇本格的に学びたい方は、ぜひ手に取ってみてください👇




前の記事はこちら!
⇒カーマイン(洋紅)色は原料も意味も虫だった!【日本の伝統色と絵具】
次の記事はこちら!
前回の記事で、えんじ色が昔から使われていることを知ったよ。
昔はどうやって使っていたの?