こんにちは、日本画家の深町聡美です。
突然ですが皆さんは「繧繝」という文字、読めますか?
これは「うんげん」と読むのですが、難しい漢字にもかかわらず、私たち日本人にとても身近な伝統彩色技法なんです!
今回の記事では、繧繝という塗り方について紹介します!
- 繧繝は「くっきりしたグラデーション」のこと!
- 繧繝は唐の時代に始まった!
- 繧繝は神社仏閣や、いろいろな身近な場所で見れる!
Contents
日本画の繧繝とはどんなもの?歴史をみてみよう!
今日のテーマの「繧繝」、全然読めないんだけど…
「繧繝」は「うんげん」と読みます!
グラデーションのことです!
繧繝彩色は「うんげんざいしき」と読む日本画の彩色技法!
繧繝彩色を一言で言うと、「色の濃淡を段階的に組み合わせた華やかな色彩技法」です。
もっとシンプルに「ぼかさないグラデーション」とも呼ばれています。
この技法は立体感や装飾性を高めるのを目的に使われます。
特に、日本では神社仏閣でよく使われていますね!
確かに、神様仏様がいるところは豪華にしたいよね!
赤、青、緑、青、橙色を、
3~6段階の濃淡に分けて帯状に塗り分ける。
といったものが多いです。
日本画の繧繝の言葉の意味とは「ぼかし」のこと!
繧繝の「繧」とは「ぼかす」という意味、
「繝」は「豪華な装飾」という意味です。
言葉から分かる通り、色を段階的に濃くして「ぼかし」、豪華に装飾する彩色技法と言えますね。
👦✋「でも色の境界がぼけてませんけど!」
現代の感覚で考えないで!
繧繝は千年以上前に中国からやって来た技法です!
当時のグラデーションと今のグラデーションでは、考え方が違うのは当然ですよね。
後述しますが、
「白と赤の二色の繧繝」もあります。
今の感覚からしたら、
全くぼかせていないし、グラデーションでもないですが、
「色の境界を明確にしたグラデーション技法」
という意味では間違いではないのです。
現代の「グラデーション」や「ぼかし」とは違うけど、徐々に色を変えて「ぼかし」を表現していたんだね!
繧繝彩色の起源と歴史的背景
繧繝っていつからあるの?
日本伝統の塗り方なの?
繧繝彩色の起源は古く、唐代の中国から始まったとされています。
日本へは仏教の伝来と共に伝わり、
平安時代には仏教美術や寺院建築の装飾模様として広まりました。
特に平等院鳳凰堂のような歴史的建造物の装飾に用いられています。
当時は鮮やかな絵具が少ない中、浄土の様子を表す華やかな彩色技法をして重宝されてきたのです。
その後も日本では神社仏閣の彩色に用いられ、
伝統的な彩色技法として現代まで伝承されています。
始まりは中国の仏教ですが、日本でも継承されている技法なんですね!
日本画の繧繝が使われた絵で有名なのは?
繧繝彩色は仏閣などの建築物でよく見られますが、
日本画の中でも使われています!
最も有名なのはこの「豊臣秀吉像」ですね。
秀吉が繧繝縁(カラフルな縁)の畳に座っています。
このグラデーションも繧繝彩色の技法が使われているんです!
日本画の繧繝彩色の特徴とは
繧繝彩色は、「ぼかさないグラデーション」が最大の特徴です!
手順の特徴としては、
「白色から始め、段階的に色を濃くしていくこと」が挙げられます。
これにより、鮮やかでありながらも柔らかな境界が完成します。
これを広範囲に塗っていくと…
豪華絢爛でカラフル&立体的な彩色が出来るという訳ですね!
また、仏教建築においては「紺丹緑紫」という「補色同士で超目立つ」色彩が組み合わされているのも特徴ですね!
中国が発祥と言いますが、
繧繝彩色は、日本の伝統美術において重要な位置を占める色彩技法です!
この技法を通じて、日本の豊かな文化遺産と技術が継承されていくことでしょう……
- 白から段階的に配色する!
- 色の境界はぼかさない!
→コントラストが際立ち、迫力が出る! - 「紺丹緑紫」という独特な色使いで塗る!
→補色同士の色で目立つ!
繧繝の色使いー「紺丹緑紫」
繧繝では「紺丹緑紫」という伝統的な配色が使われています。
「紺丹緑紫」とは朱(赤)、青、緑、燕脂(紫)、丹(橙色)の5色を用いた配色のこと。
これらの色は「補色関係」という、とても目立つ組み合わせで使われていました。
例えば、緑の横には紫、青の横には朱という感じです。
これにより、豪華絢爛な色彩になっています。
日本の伝統は身近な所に!繧繝の実例を見てみよう!
繧繝がどんなものか分かりましたね!
でも
「日本伝統の模様って言っても、あまり見たことない…」
という人も多いですよね。
そこで、ここでは皆さんの身の回りにある繧繝を探してみましょう!
実は、気付いていないだけで意外な所にあります!
みんなも探してみよう!
神社仏閣の装飾彫刻にも繧繝が使われていた!
繧繝彩色で一番身近なのは、神社仏閣の装飾ですね!
有名な「雷門」にも繧繝彩色が隠れています。
提灯の上の方にカラフルな雲が見えますね。
よく見ると、雲の輪郭側(外側)は白く、徐々にピンク、赤と色が濃くなっているのが分かります。
繧繝彩色が日本で使われ始めたのは、平安時代ごろとされています。
昔は、今ほど鮮やかな絵具は少なかったため、
繧繝という、色の組み合わせや塗り方で豪華さを表していたのです。
だから神社仏閣みたいな信仰の場所で使われたんだね!
そんな繧繝彩色の起源は中国の唐代でした。
それもあってか、香港の寺院は日本以上に繧繝彩色が使われています!
屋根の装飾など、探さなくても繧繝が見つかりますね!
韓国の寺院でも使われていますね!
仏教芸術から始まった豪華な装飾というのを実感させられます。
畳の繧繝縁って繧繝彩色に含まれるの?
まずはこちら!
ひな祭り等で見かける豪華な畳です。
繧繝といえばまずこれを思い浮かべる方も多いのではないでしょうか?
このように、
縁の部分がカラフルになっている状態を繧繝錦と言います。
繧繝縁の畳は天皇や神仏のような、位の高い人しか使えなかったんだって!
👦「でも白枠の中に色が入っているだけで、グラデーションじゃないよ?」
ですよね!
その疑問、分かります!
ここでコトバンクを引用して繧繝錦の意味を調べてみましょう!
うんげん‐にしき【繧繝錦】
〘 名詞 〙 錦の一種。文様の周囲を各種の色でくまどった様式の総称。近世は赤地に黄、緑、青、紫など二種類以上の色糸を横糸として用い、ひし形、棒縞などの文様を織り出した織物をいう。地合は斜文組織。天武天皇(六七二‐六八六)のころに始まり、装飾および畳縁地(へりじ)に用いられる。うんげん。
ちょっと難しいですが、繧繝彩色とは異なる説明がされていますね。
実は繧繝彩色と繧繝錦は、意味が少し違います。
何故なら、「繧繝彩色」という技法を、装飾に応用したのが「繧繝錦」だからです。
思い出して下さい。
繧繝とは「色の境界を明確にする技法」のことです!
つまり2色でも繧繝に含まれるのです。
厳密には「繧繝錦=繧繝彩色」ではありません。
繧繝彩色から派生したのが繧繝錦であり、両者は別物と言えます。
ですが、絵の中の繧繝錦を描く時に使うのは繧繝彩色になります。
混乱しそうですが、「繧繝縁の絵を描く時は繧繝彩色!」ということでこちらで紹介いたしました。
この記事を書く上ですごく勉強したけど、こんがらがって大変だったよ。
官女の下がさねの繧繝ーお雛様も繧繝で描ける!
明治時代の日本画技法書「丹青指南」には、「繧繝彩色で描くものリスト」的なものが掲載されています。
そこでは前述の
- 神社仏閣の彫刻装飾
- 畳の繧繝縁
のほかに、
- 官女の下襲
も載っています。
官女といったら三人官女。
お雛様が思い浮かびますね。
彼女たちの着物の重ね着(袖や襟)も、繧繝彩色で表現するという事です。
着物の詳しい構成はこちらのサイトで詳しく読めます!
参考にしてください👇
鎧の縅糸の繧繝
お雛様ときたら、次に連想されるのは端午の節句でしょうか。
というわけで、五月人形などの甲冑も、丹青指南の「繧繝彩色で描くものリスト」に含まれています。
特に、「縅糸」と呼ばれる、カラフルな紐が繧繝彩色で描かれます。
上の写真の、茶色っぽい紐の部分ですね。
この鎧の首周りの紐がグラデーションのようになっているのが分かるでしょうか?
このようなグラデーションが使われている甲冑は、
繧繝彩色で描かれていたのです。
以上、繧繝彩色で描かれるモチーフたちでした!
神社仏閣では繧繝彩色で装飾がされていて、
鎧や着物の重ね着を描く時にも繧繝彩色が使われていたんですね。
意外と身近なところにあった繧繝ですが、
ここからは繧繝彩色のやり方も学んでいきましょう!
繧繝彩色のやり方ー胡粉の使用法、白緑青のぬりかた、三色、五色の仕立て方
ここからは明治の日本画技法書「丹青指南」に掲載されている、繧繝彩色の施し方を紹介します。
描くものによって塗り方は様々ですが、
- 最初に胡粉を塗ること
- 薄い色から塗ること
- 赤でも青でも、どの色でも塗り方は同じ
ということは共通しています。
①胡粉を全体に塗る
繧繝彩色では様々な色が使われます。
ですが、どの色を使う時でも最初は全体に胡粉という白い絵具を塗ります。
これは、下地として発色を良くするほか、
そもそも繧繝の一端が白色であるためです。
②畳を描く時は境界が白になるように塗る
もう一度上の畳を見て下さい。
畳の縁の境界は白と白が隣り合っていますよね。
畳の縁の縞柄を描く上では、その一区画ごとの境界相互を白色とします。
②官女の衣は5色で配色する
女官が着る下がさねの五枚の重ね着を描くときは、その襟および袖口の一端を白色として、一般的に五色で配色します。
下がさねを描く時も、最初に全体に胡粉を塗ります。
次は、やや薄い色の臙脂具(少し白を混ぜた臙脂色)を使います。
これを、三層の濃さになるように次第に濃く塗り、
最後に色が濃い臙脂色だけを塗って完成させます。
まとめるとこんな感じです。
- 重ね着の全体に胡粉(白)を塗る
- やや薄い臙脂+白を塗る
- 臙脂+白を徐々に濃くして三色に分けて塗る
- 濃い臙脂色だけで塗る
臙脂は一例だよ!
他の色でも塗り方は一緒!
③神社仏閣の繧繝雲の塗り方
神社仏閣にある、雲形の彫刻も同じように作ります。
ただ違うのは、一区画ごとの内側が白色ということです。
他は外側が白でしたが、雲の場合は内側が白になります。
この、内側が白い繧繝を「逆繧繝」と呼びます。
丹青指南では、雲の繧繝は一般に三色で塗り分けるとされていました。
ここでは緑系として「緑青」の絵具シリーズを使った伝統的な塗り方を紹介します。
どんな色でも、白から濃い色の順に塗り分ければいいんだね!
水で薄めたり、滑らかなグラデーションにする必要がないのが良いですね!
まとめー日本画の繧繝彩色、塗り方と歴史の紹介
最後までお読みいただきありがとうございます!
以上、繧繝彩色について解説してきました!
繧繝彩色の魅力は、ダイナミックな色のグラデーション!
現代のグラデーションのように、滑らかにぼかしていないところが迫力や立体感を感じさせますね!
もし滑らかにしていたら、繊細な雰囲気になっていて、
荘厳さは失われていたかもしれませんね。
繧繝は千年以上前に唐で生まれた技法。
そんな歴史的な技法ですが、
- 白を塗る
- 白に近い橙を塗る
- 徐々に濃くする
- 最後に濃い橙を塗る
というシンプルな工程で作れてしまいます!
(※橙は例なので、他の色でもOKですね!)
ぜひ皆さんも千年の歴史に思いを馳せながら、繧繝彩色をやってみて下さいね!
次の継承者はあなたかもしれません!
日本画を学ぶなら必須の一冊!
日本画の「何それ?」を解決!
丹青指南の原文はこちらの国会図書館から全て無料で見れます。
現代語訳を通して読みたい方へ!
原文が本で読めるようになりました!
前の記事はこちら!
➡「グラニュレーティングカラーズ」 ホルベイン透明水彩 待望の分離色!色見本とレビュー
次の記事はこちら!