- 裏具とは主に絹本に使われる、絵絹の裏側から先に色を塗る方法 !
- 薄い和紙でも使える !
- 実はおススメの色の組み合わせがある !
- この技法を使えば、絵具が剥落しない!
こんにちは、日本画家の深町聡美です!
みなさんは、
日本画の秘技
裏具(裏彩色)
をご存知ですか?
今回紹介する裏具という技法は、
もともとは絹に描くためのもの!
え!?絹に描くの!?
と思った皆さん、
実は美術館での展示作品にも、
絹に描き、裏具技法が活用されている作例がたくさんあるんです!
技法を知れば、
きっと、新しい発見や感動があるはず。
ぜひ最後までお読み頂き、
制作や鑑賞に役立てて頂ければ嬉しいです!
木版画にも裏彩色があるようですが、今回は日本画の話をしていきますね!
最新版が出ました!
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Contents
日本画の技法とはどんなのがある?五つの技法をみてみよう!
日本画の着彩技法っていっぱいあるよね!
本ブログでは日本画の着色技法を解説しています。
現在、4つの技法の解説が完了しました!
でもやっぱり
「日本画の伝統的な塗り方って難しい…」
と、いう方も多いはず!
名前から塗り方を連想しづらいよね…
ですが、現在当ブログで取り扱うのは
近代狩野派の技法書『丹青指南』に書かれた
5つの技法!5つの用語だけ!
たった5つ知れば、
「この人、詳しいな!」
となれます。
なので、もう一度おさらいしてみましょう。
これらの手法はそれぞれ異なる特性を持ち、
描く絵やその表現方法に合わせて選ばれます。
つまり、この技法を理解すれば、
あなたの絵にもすぐに応用できるのです。
用語は少し難しく感じるかもしれませんが、
一度イメージがつかめたら理解できるかも!
さて、今回の記事では、この中から
「裏具」の技法について詳しく解説します。
博物館のあの日本画は、「絹」に描かれていた!
今回はまず、普段あまり耳にしない
「絵絹」という素材についてお話ししましょう!
ちょっと意外に思うかもしれませんが、
日本画を描けるのは和紙だけではありません。
実は絹にも絵を描くことができるんです!
絹って、服とかスカーフに使うやつでしょ?
と思ったあなた、正解です!
でも、美術館にある掛け軸を思い出して下さい。
縦横に織目が見える絵がありませんでしたか?
それは、実は絹なんです。
次に美術館に行った時に、
織目がある絵を探してみて下さい。
そのキャプション(作品説明)には
「絹本着色」(絹本著色)
と書かれているはずです!
絵絹は、その透明感ある美しさから
近年人気を集めているようです。
絹本専門画集のようです。
見本写真からも織目が分かりますね。
絵絹はカッコいいけど扱いは難しい!
わ~!僕も絵絹に描いてみよ~!
ちょっと待って!
絹本はちょっとデリケート。
絵を描く時うっかり重ねすぎてしまうと、
絵具が剥落してしまうことも…
しかも、絵絹をキレイに張るのも一苦労。
皺をつけずにきれいに伸ばしたり、
織目が斜めにならないように
気を付けないといけません。
「でも、そんなデリケートな絵絹に、
どうやったらしっかりと絵具をのせられるの?」
という疑問に答えるのが
「裏具」(裏彩色)の技法なんです。
「うらぐ」「うらざいしき」と読みます。
裏具を使えば絵絹上でも
重厚感ある絵を表現することができるんですよ。
絵絹と裏具の魅力を発見したところで、
さっそく裏具の解説に入っていきましょう!
裏具/裏彩色とはどんな日本画技法?
前の章で、日本画は紙だけじゃなくて絹にも描くのが分かったよ!
皆さん、前章で「絵絹」について分かりましたね!
本章ではいよいよ、
その絵絹に施す秘密の技「裏具」についてです。
「裏具」という言葉は
ちょっと聞き慣れないかもしれませんね。
でも、「裏彩色」や「裏絵具」としては
知っているかも。
裏具や裏彩色は、
絵絹の裏側に色をのせる技法なんです。
なんと、この技法、
日本では9世紀頃からある古いもの。
でも
「えっ、裏側に色を塗るの?」
と思うかもしれませんね。
実はこの方法、
絵絹の特性を生かした素晴らしい技法なんです。
その前に、絵絹に描く時の手順を見てみましょうね。
- 絵絹を「絹枠」(木のフレーム)に張りこむ
- 骨描き(輪郭線描き)をする
張った状態がありました!
まず、絵絹を「絹枠」という木の枠に張ります。
すると、上の写真のようになります!
この写真の真ん中の白い部分は、
パネルのような板張りではありません。
スケスケの状態です。
そして、その次。
絵の大まかな輪郭を描く作業、
いわゆる「骨描き」をします。
すると…
スケスケなので、
裏側を覗くと、描いた絵が透けて見えます!
つまり裏側から必要な場所に
色を施すことができるんです!
そして、この裏からの彩色は、
絹を挟むことで表面に優しい色合いをもたらします。
裏側をしっかり彩色して、
表からの色は控えめにすることで、
透明感ある繊細な表現が生まれるのです。
面白いことに、
裏と表で同じ絵具を使うこともあれば、
異なる色を使うことも。
さらに、裏具は、絹だけでなく
薄い和紙にも応用できるんですよ。
さて、皆さんもこの「裏彩色」を使って、
自分だけの透明感ある作品を試してみませんか?
裏具によって、薄塗りでも美しい色の重なりが表現できるのです!
裏具をしないと、厚塗りで野暮ったくなったり、絵具がはがれやすくなるんだね。
裏具/裏彩色によく似た技法「裏箔」の輝き!
裏具によく似た技法に「裏箔」があります。
「裏箔」とは、絵絹やその他の素材の
裏面に箔を貼り付ける技法。
この技法を使うと、表から見ると
優しく輝く箔の効果が楽しめます。
特に仏画では、装身具や
光背といった部分で
この技法が使われています。
平安時代には、この輝きを持った
裏箔が大変愛されていました。
ちなみに、この裏箔も、
絹だけでなく、薄い紙にも応用できます。
紙の裏に箔を押しても、
表からは同じように
優しい輝きを放つ美しさを楽しめるのです。
裏から金箔を貼るのが難しい場合は、箔の上から薄紙を貼ると良いですよ!
裏具/裏彩色を使う理由!こんな効果があるんです!
さて、裏具の話に戻ります!
「裏から描くって良く分からない…」
「薄塗りするなら、しなくてよくない?」
と言う声が聞こえてきそうですが、
裏具は剥落を防ぐ以外にもスゴイ効果があるんです。
絵絹には、細かい織り目がありますよね。
この微細な織り目と、繊維そのものの
透明性を活かすことで、
裏から塗った色が表に透けて見えるのです。
これはまるで、
色のレイヤーを重ねて深みを増すような効果!
裏と表の両方から色を塗ることで、
色が混ざり合った複雑な美しさが生まれるんです。
デジタル絵で半透明のレイヤーを、重ねているような感じなんだね!
さらに、この技法の魅力は
ただの美しさだけではありません。
絵具を絹の裏と表から塗ることで、
織り目を通してしっかりと接着されます。
つまり、
絵具の剥がれるリスクも抑えられるのです。
古い東洋画の
「裏打ち紙」(裏から貼って頑丈にする紙)
を剥がすと、裏具や彩色が出てくるのだそう!
これを通して、
古代の彩色技法の秘密が解明されていたんですね!
- レイヤーを重ねる感じだから、色に深みが出る!
- 裏と表の両方から色を塗ることで、複雑な美しさになる!
- 絵具の剥がれるリスクが減る!
裏具/裏彩色の手順を紹介します!
裏から塗るって良く分からない!
裏具って難しくないの?
安心して下さい!
裏具の方法は、
実は思っているよりシンプルなんです!
改めて裏具の手順を見てみましょう!
- 絵絹を木枠に張る
- 下図を転写する
- 骨描きをする
- 裏具を施す
- 塗り返しをする
まずは、絵絹をしっかり張りましょう!
そこに下図を転写します。
下図とは実寸大の下書きのこと。
いきなり絹に描かずに、別の紙に描けば
書き直しがしやすくて安心ですね。
次に骨描きを行います。
これはペン入れのようなもの!
絵絹はとても薄いから、
骨描きの墨が透けてしまいます。
ちょうど油性マジックでコピー用紙に
絵を描いたら透ける感じですね。
そんな透けてる絵の裏側から、裏彩色を施していきます。
この際、
裏彩色はしっかり塗ってもOK!
絹のおかげで、表から見ると
ふんわりと柔らかい感じが出ます。
そして、絵の表側からも色を足しましょう。
この表からの塗り足しを「塗り返し」
と呼ぶこともあります。
ただ、塗り返しの時は薄めに、
または影入れだけにするのが良いみたいです!
これによって、
絹本独特の繊細な透明感がでるんですよ!
全ての絵で表から塗る必要はなし!
表からは影だけを入れ、色は裏だけで完結することもあるんです。
でも、人物画の場合、
顔や身体の部分は塗り返しが必須ですよ!
だいたいのイメージは出来たよ!
それでは最後に、
裏具と、表の塗り返しの色の組み合わせ
をお話していきます!
裏具/裏彩色の色の組み合わせルール
裏具の秘密は、色の組み合わせにあります!
基本的に裏具と表の塗り返しは、
同じ色を使うとされています。
ですが表裏の色の組み合わせが
少し違うものもあるんです。
「丹青指南」という技法書では
裏具は人物や花鳥の絵に使うとされ、
表裏で違う色の組み合わせが紹介されています。
- 表 群青:裏 藍の具
- 表 緑青:裏 白緑青
- 表 金泥or朱:裏 丹の具
- 表 銀泥:裏 胡粉
※具とは絵具に少し胡粉を混ぜたもの
例えば、表が群青だったら、
裏具は藍色に胡粉を混ぜた色。
表が金泥や朱なら、
裏具には丹の具を使うなど、
表に塗る色と近く、
少し薄い色が紹介されていますね。
また『日本画 画材と技法の秘伝集』では、
ほかの色の組み合わせも載っています。
「一遍上人絵伝」1299,絹本、円伊筆について
- 馬は裏から濃い茶色、表からは明るい茶色
- 人の衣装は裏から青、表から白
➡青みがかった白に見える。- 牛は裏から黄土、表より黒
『日本画 画材と技法の秘伝集』p135
「十六羅漢像」 南北朝時代、 14世紀 絹本について
- 肌、袈裟、 紐は表裏に同じ色
- 払子は裏に白、表朱色
- 靴に裏から群青、 表より淡い墨
➡ほんの少し青が感じられる
『日本画 画材と技法の秘伝集』p135
以上のことから
裏と表の色の組み合わせが
凄く緻密に計算されているのが分かりますね。
色の組み合わせ効果に慣れるまでは、
先人の知恵をまるっと拝借するのがおススメです!
分かるまでは、真似をして練習しよう!
皆さんもぜひトライしてみてくださいね!
次の章では、裏具は絵絹だけじゃなく、
薄い和紙にも使えることをお話しします!
裏具/裏彩色は和紙にも意外と相性がいい!
今まで裏具は「絹本」が主流として
説明してきました。
特に、丹青指南では
「絹本に限る」とまで言われています。
ですが、この裏具の技法は
絵絹だけのものではありません。
実は薄い和紙にもピッタリの技法なのです!
厚い和紙や滲み止めをした紙とは相性が悪いのでご注意下さい!
裏の絵具が透けないと意味がないもんね!
こちらの講座では、雲肌麻紙の裏から
色を塗っています。
雲肌麻紙は厚くて丈夫な紙ですが、
ドーサ引きをしないと絵具が染み込みます。
そこに水彩絵具や水干絵具など、
紙に浸透しやすい絵具を塗っているようですね。
和紙に描くのが好きな皆さんも、
一緒に裏具に挑戦してみませんか?
次の制作でやってみたいですね!
※和紙の裏具はパネルに張る前に
行います。
色紙や麻紙パネルではできないので
注意しましょう。
まとめー日本画の技法『裏具/裏彩色』は絹本制作必須スキル!狩野派の技法書から解説します!
最後までお読み頂きありがとうございます。
裏具は、絵絹の裏側から色を塗る、
古くから続く日本画の特有の技法でしたね!
主に絹本に用いられてきましたが、
実は薄い和紙にも応用できるのがポイント。
裏具と塗り返しの組み合わせは、
作品一つ一つの魅力を最大限に引き出します!
そして、この裏具を採用する最大のメリットは、
厚塗りにならずに綺麗な色味を維持しながら、
絵が剥落する心配がないこと!
裏具のおかげで、
多くの歴史的価値を持つ古い絵が
今も見れると言っても過言ではないのです。
皆さんも裏具をやってみて下さいね!
絹本するならこれ一冊!
絹本は情報が少ないですが、
この本があれば一人で出来ます!
実際、この本だけで
独学絹本をしている方に
お会いしたことがあります。
まずは水干絵具で描いてみよう!
粒子が細かく使いやすい絵具!
剥離しにくいので初心者にも
オススメの絵具です!
面倒な絹張りをしなくても
絹本に描ける!
最初から枠に絹が張ってあるので
湯で伸ばしたり、
糊で貼ったりなどの手間が省けます!
こんな絵が描けるようになるかも!?
丹青指南現代語訳で裏彩色のやり方を見てみよう!
ここからは狩野派の隈取の方法について原文で見てみましょう!
こちらの原書は『丹青指南』という絵の描き方の本です。
原書を読むにはどうすればいいの?
そんな時は国立国会図書館のサイトでチェック!
全文を無料で読むことが出来ます!
また、正確な訳や詳しい図解が欲しい!
という方は画材と技法の秘伝集がおススメです!
裏具
この裏具を塗るのは絹地にかぎる。
その図案は主に人物花鳥の類である。
そして表面を塗るのに適した絵の具で、
最初に裏塗りを施す。
(この裏具を塗るのは写真画に属する
絵に施すものであるが、
その図案によっては表の塗り返しを省いて
直ちに隈取りをすることもできる。
しかし人物画であれば
その顔及び身体などは
表の塗り返しが必要である)
次にその絵具で表のほうを
塗り返すものとする。
こうして大抵は表裏に同じ絵の具を使う。
と言っても、表の絵の具によっては
裏具に他の絵の具を使うものが5種類ある。
その種類は表群青ならば裏具は藍の具。
表緑青であれば、裏具は白緑青。
表金泥もしくは朱であれば裏具は丹の具。
表が銀泥であれば裏具には胡粉を使うものである。
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前の記事はこちら!
➡日本画の彩色技法『付立て』(つけたて)ー東洋ならではの、筆を活かした画法を解説!
次の記事はこちら!
乞うご期待!